借金には時効があり、1万円だろうが、1億円だろうが、成立すれば支払いが免責され、借金から解放されます。
ただし成立させるには相応のハードルがあり、簡単に達成できるとは言い難いです。
「借金に時効があるって本当?」
「時効が成立するまでの流れを知りたい」
と気になる方もいらっしゃるのでは。
そこで当記事は借金の時効とはなにか、成立するまでの流れなどについて紹介していきます。
今ある借金を時効にしたい方は、この記事を参考にして、時効手続きを始めてみましょう。
目次(もくじ)
借金の消滅時効とは
金融機関からの借金に適用される時効を「消滅時効」といいます。
消滅時効は一定期間、権利を行使しないと、借金の権利が消滅すること。
時効成立までの期間は次の2種類です。
- 親族、友人など個人間の借金:10年間
- 消費者金融や銀行などの金融機関:5年間
例えば、金融機関から100万円を借入したけれど、5年間、特に請求がこなければ、消滅時効が成立して「借金を支払って」と言う権利を失います。
ただし、消滅時効期間が経過したからといって、自動的に支払い義務がなくなるわけではありません。
金融機関に「時効が成立しているので、私には支払い義務がなくなりましたよ」と通達して初めて時効が成立。
これを「時効の援用」といいます。
時効期間の満了+時効の援用をセットで、借金の消滅時効が成立する、と覚えておきましょう。
時効が成立するまでの流れ
時効が成立するまでの流れをひとつずつ追っていきます。
次の5つの手順で進めていきましょう。
- 時効期間の満了
- 時効の中断がない
- 時効の援用をする
- 内容証明を債権者が受取る
- 時効が成立(債務者は支払い義務がなくなる)
それでは各ステップの詳細を見ていきます。
1. 時効期間の満了
成立させるための絶対条件は「時効期間の満了」です。
まずは期間について詳しくみていきましょう。
時効が成立する期間
時効期間は借入先によって異なり、次の2パターンが挙げられます。
▼消費者金融やカード会社、銀行など、法人から借りた場合:5年
なお時効期間の起算点は「最後に返済した日の翌日」です。
最後の返済が2020年1月1日なら、翌日1月2日からカウントが始まり、2025年1月3日をもって時効期間の満了が成立します。
一度も返済しなかった場合は、返済期日の翌日が起算点です。
2. 時効の中断がないこと
消滅時効は借りた側からするとメリットですが、貸した側にとってデメリットです。
そのため債権者は、時効の進行を食い止め、時効期間の進行をリセットさせられる「時効の中断」という制度を行使可能。
時効を成立させるには、時効の中断がないことも条件に含まれます。
貸主は時効を中断できる(時効がゼロに戻って再スタート)
日本の民法で定められている時効の中断事由は、以下3点です。
- 請求
- 差押、仮差押または仮処分
- 承認
それぞれその方法について具体的に見ていきましょう。
請求
債権者から債務者に対して、様々な請求を行えます。
主に4つの請求が行われているので、その内容を見てみましょう。
1. 支払い催促
契約書、債務確認書といった証拠品を持参し、簡易裁判所に申し立てます。
すると裁判所が書面で借金を支払うよう命令。
書面が届いてから2週間以内に「異議申し立て」を行わなければ、債権者が30日以内に仮執行宣言の申し立てを行えます。
2. 調停申し立て
調停裁判所で話し合いを行い、借金の返済を請求します。
3. 即決和解申し立て
訴訟せず、互いに争うことなく和解する手続き。
上手く行かなければ裁判へと進みます。
4. 催促書類の提出
訴訟の前に、再度支払いを促す書類を郵送します。
この書類が届いてから6ヶ月間、時効を中断可能。
差押、仮差押または仮処分
上記した請求で解決しなかった場合、訴訟や支払い催促によって裁判所から強制執行の許可が降り、財産差押や仮処分が行われます。
これにより時効は中断。
例えば住宅ローンの滞納による差し押さえなら、対象の住宅を競売にかけて売却し、そのお金で返済します。
承認
債務者が債務を認めると、時効が中断されます。
支払い約束証へのサイン、債務の一部弁済などが債務の承認に該当。
例えば次の2つのケースが挙げられます。
- 1円でも返済する
- 「お金ができたら払うから」と対応する
これらは「債務があることを認める行為」とみなされます。
5年の間で1度でも借金を認めると、その時点で時効はリセットされ、振り出しに戻ることに。
3. 時効の援用をする
借金の時効を成立させるためには時効の援用が必須です。
ここからは援用について解説していきます。
時効の援用とは
時効期間を満了した上で「時効の援用」を行わなければ支払い義務はいつまでも残り続けます。
「私は支払いません」と債権者に通達することで援用が認められ、初めて時効が成立する仕組みです。
法律で援用の通達方法が決められているわけではないので、口頭で「援用します」と伝えても認められます。
しかし相手が「聞いていない」と言い張るとこじれる原因に。
そこで第三者にも関与してもらう「内容証明郵便」を利用して援用します。
内容証明郵便は同じ内容の文書を3通作成して、次に郵送・保管します。
- 差出人が保管
- 郵便局に保管
- 債権者に郵送
これにより、第三者となる郵便局にも記録が残り、より確実性が増す、という仕組み。
仮に債権者が「そのような書類は受け取っていない。
時効は認められない!」と言い張っても、郵便局に記録が残るため、効果がありません。
時効を援用するデメリット
時効を成立させるために援用を実行すると、複数のデメリットが生じるため注意が必要です。
ここからは時効を援用するデメリットについてみていきましょう。
過払い金を請求できなくなる
「以前まではちゃんと返済していたけれど、今は支払っていないから援用したい」というケースだと過払い金の請求ができなくなります。
時効が成立するほど以前から借入していたのなら、過払い金請求ができる可能性が高く、その権利も失うことになるため覚えておきましょう。
もし過払い金が見込めるなら、そちらを優先した方が得になりやすいです。
多く支払ったお金が返ってきて、時効で支払わなくても良くなったお金以上を得られる可能性もあります。
消滅時効情報を信用情報機関に登録しない金融機関がある
借金の延滞は信用情報機関に「事故情報」として登録されます。
しかし援用によって消滅時効が成立しても、金融機関によっては信用情報機関の登録情報が更新されないことも。
事故情報がいつまで経っても信用情報機関に残り続けるケースが考えられ、他カードローンやクレジットカードの申込時に不利となってしまいます。
金融機関は債務者の住民票を取得できる
債権者は債務者の住民票を取得可能です。
そのため、引越しして住民票を移したとしても、新居に請求書を送ったり、訴訟を起こして時効の中断を行うことができます。
もし仮に「夜逃げ」で時効期間の満了を狙ったとしても、住民票がなければ生活に不具合がでますし、逃げ切るのは現実的ではありません。
時効援用できない理由
ここでは時効援用できない理由について具体的に説明します。
単に本人の勘違いだったため
まず意外と多いのが、本人がただ単に勘違いをしていたからというものです。
時効の対象になる起算日を間違えている、そもそも借金の時効の根本的な知識を持っていない、勘違いしているケースです。
このようなことをいうと失礼かもしれませんが、借金にルーズな人はえてして時間などにもルーズな傾向があります。
そのため、いつ貸金業者と契約をして、いつから取引が停止しているのかという時間に対する記憶があいまいな人も多いのです。
その結果、起算日が間違ってしまっていて実は時効の期間がまだ終了していなかったというケースも結構多く発生しがちです。
裁判所で訴訟を起こされるケース
貸金業者への借金の時効は5年です。
この5年のスタートは、最終取引から5年経過した時なのですが、この時効の前に裁判所に訴訟を起こすケースがあります。
訴訟を起こされると債権名義を取る形になります。そうなると、さらに10年間時効が延長してしまうのです。
このような理由で、時効援用の手続きを貸金業者に行って実は時効の成立していないことに気が付くパターンは多いです。
そしてこの手続きをきっかけとして、貸金業者から執拗に催促が発生する可能性も出てきます。
また延滞をしているわけですから、遅延損害金も膨大になっていて、気が付けば借金が今までとは比較にならないほど莫大な額に膨れ上がっていたというケースもあり得るわけです。
4. 内容証明を債権者が受取る
援用に関する内容証明を債権者が受け取ると、晴れて時効が成立します。
5. 時効が成立(債務者は支払い義務がなくなる)
時効成立後、債務者は借金を支払う義務がなくなるため、今後は取立や催促に怯える心配はありません。
借金の無い、まっさらな状態から再スタートを切れます。
ただし時効が成立するの可能性は極めて低い
借金の時効が成立すれば、支払い義務から解放されて支払いに悩まされることはなくなります。
そのため借金のある人は誰だって時効に持ち込みたいと考えるでしょう。
しかし金融機関からすると、貸すだけ貸して、時効が成立してしまうと大損です。
そのため、簡単には時効が成立しないように様々な手法を用いて阻止しようと動きます。
こちらが「時効期間の満了まであと少し…」と思っていても、実は債権者が時効の中断を行っている可能性は十分ありえる話。
相手は金融に関する法律のプロです。
時効が成立する可能性は極めて低いものだと理解しましょう。
借金問題を投げ出してはダメ
とんでもない借金の額になっていて、執拗に督促が来るようになれば、精神的に嫌になってしまう人も多いです。
しかしだからといって、絶対に逃げ回らないようにしてください。
逃げ回っているだけでは問題の解決になりません。
しかもいくら逃げたところで、いつ見つかるかという精神的なプレッシャーと戦う羽目になります。
そのような労力を考えると、逃げるという選択肢はお勧めできません。
どうしても借金の返済ができないというのであれば、司法書士や弁護士に相談してみることです。
債務整理の検討を。その方が健全
時効まで逃げ切るために、日常生活に支障をきたす可能性もあります。
督促状が来ないようにするためには、いわゆる夜逃げのような状態で逃げないといけません。
そうなると住民票が移せなくなります。
もし子供のいる家族であれば、住民票を動かせない以上、小学校や中学に通わせられなくなる恐れがあります。
このようなことを考えると、債務整理をして問題解決した方がデメリットははるかに少ないです。
どっちにしろブラックリストに載るなら早く終わるほうがいい
債務整理を躊躇している人の中には、ブラックリストに載ってしまうからという理由を挙げる人もいます。
確かに債務整理をすると、個人信用情報にブラックリストすなわち事故情報が登録されてしまいます。
そうなると、クレジットカードを作ったり、新たにローンを組んだりするのが困難になるのは確かです。
しかしそもそも借金を長く延滞している時点で、事故情報として登録されています。
3か月以上の延滞があれば、まず間違いなく事故情報は載っているはずです。
ならば債務整理をして、人生のリセットをする方が得策ではありませんか?
まとめ
今回は借金の時効に関する情報や時効の援用方法などを紹介しました。ポイントをおさらいしましょう。
- 金融機関からの借金は5年で時効となる
- 時効期間を満了し、援用して初めて時効が成立する
- 金融機関は簡単に時効が成立しないよう様々な手段を用いるので成功率は極めて低い
以上3点が本記事の要点になります。
「借金の時効を成立させたい!」
「どういう仕組で時効になるの?」
といった方は、この記事を参考にして時効を成立させられるか否かを判断してみましょう。
合わせて債務整理の検討も行うことをおすすめします。